忍者ブログ
Twitter
カウンター
コンテンツ
~teamBDRの酒場~
掲示板です。

~teamBDRの会議室~
チャットです。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
メンバー自己紹介
HN:
teamBDR
性別:
男性
職業:
高校生
自己紹介:
このブログは退屈な日々を革命すべく集まった6人のブログなんDA。
メンバーの紹介なんDA
[Joker(ジョーカー)]この団を作った人。学園都市の日常・科学サイドを書いてるのはこの人。ボディサイドのガイアメモリをコンプしている。最近、teamBDRが満足同盟となんら変わりない事に気づいたが、狙ってなどいなかった。いや、ホンとにマジで。まあそんな事はどーでもいいから、満足しようぜ!!

[ナレ神(シン)] 貴重な「純粋なツッコミ役」。LUKEとは実況・解説コンビである。最近、兄のオタクライフを書いた記事が大ヒットした。

[ガチャピン]旧かみやん。最近はこっちの名を名乗るほうが多い。通称、魯迅(ろじん)。又は、北大路魯山人(きたおおじろさんじん)。もうなんか『お姉ちゃん』しか言わないかわいそうな人。teamBDRの中でもトップクラスにアレな人なんDA。 

[S(サジタリウス)] 変態である。クラスの女子、挙句の果てには学校の先生にまで変態と言われてしまったぞ!この変態軍人めが!!

[Sgt.LUKE(サージェント.ルーク)] おそらくこの団最強の男。その脳内は無限のユーモアにあふれている。もしかしたらアンサイクロペディアを超えているかもしれない。ちなみに食玩のサイクロンメモリを持っている。

[XILE(ザイル)] 割と普通人。EXILEのファン。この団に入ってからまわりに毒されてきた。被害者。だが本人は楽しそうである。
バーコード
ブログ村
アクセス解析
引越ししました→http://teambdreveryday.blog.fc2.com/
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第3話 『情熱をなくさないで』


作者 Luke


 学園都市。よく晴れた本日の午後は平和だった。
 休日であるため、街は人で溢れ、友人とショッピングなんかを満喫している学生たちがたくさん見られた。
 そんな午後のとあるケーブルカー内。ごく普通の高校生・上条当麻は、
(……、不幸っつーか……、軽くヤバい)
 戦慄していた。

 
 
 目の前の奇抜な格好をした外国人の『男』は無言で上条に詰め寄る。
「上条当麻」『男』は先ほどより少し上条との距離をおくと、「『禁書目録』が何故この『学園都市』にいるのかはわからない。しかし、俺たち独自のルートを使って調べたところお前がこの街において『禁書目録』に近い存在というのがわかったんだ。だから、会ってちょいと質問してみようと思ってね……」
(………………)
 上条はこの『男』が何者なのかさっぱりわからない。さっきから彼が言っている『禁書目録』というのは、上条の家に居候している銀髪の外国人少女のことだ。上条自身は『インデックス』と呼んでいる。
 見かけはごく普通な外国人少女のインデックスだが、彼女はわけあって『禁書目録(インデックス)』と呼ばれている。それは彼女の脳内には一〇万三〇〇〇冊もの魔道書が保管――記憶されているからであった。
 そんな彼女を狙うのであればもちろん『男』は魔術師と言いたいところだが、上条には『男』が魔術師には見えなかった。服装や見た目はもとより……とりあえず雰囲気が違うのだ。何度か魔術師と対峙している上条は、『そのへんの違い』を見分けるのに多少自信があった。
 上条はできれば目の前の『男』を『自分やその身内を狙う危険なヤツ』とは認識したくなかった。だって嫌じゃない? もしかしたら命狙われるかもしれないんだよ? 彼はなるべく楽観的に考えようとして、適当に質問。
「あんた教師ですか?」
「まさかだろ」
 即答。ダメだった。それどころか『男』は更に鋭さを増した声で、
「『インデックス』はただの女じゃあねえ、『魔道書図書館』なんだぜ……。魔術師なら喉から手が出るくらい欲しいモノだ。だからボスは俺に、そいつはどこにいるか調べろ、と命令したんだ」
『男』は今度は上条と顔がつくほど距離を寄せ、
「お前に質問する」
『男』は上条の左手の手首あたりを軽く握りながら、
「『お前の身内』で『インデックス』という女はいないかい?」
 その言葉をきっかけに場の空気は沈黙した。
 上条は眉一つ動かさず黙る。そしてそんな上条をジッと見つめる『男』。そこにはまるで、今すぐにでも殺し合いが始まるような、そんな空気がはりつめていた。
 ……何秒くらいだろうか? やがて沈黙は破られた。
「いいえ……、知りません…………『インデックス』……なんて人は……」
 沈黙を破ったのは上条だった。
 そんな様子を見計らうかのようにケーブルカーの入り口が開いた。停車ポイントに着いたのだ。汗をかかないね、と『男』は納得のいった顔をして、
「よし信じよう。質問は以上だ。じゃましたな……上条当麻」
 言って『男』はケーブルカーから降りて行った。上条は『男』の後ろ姿を少し見送った後、ようやく安堵の息を吐いた。
 上条は自分で、いまいち冷静さに欠けている、と思うことがたびたびあったが、今回はわりと良い判断が下せた気がする。これでインデックスを危険にさらすことがなくなったし、何より自分自身が安全でいられた。触らぬ神に祟り無し、というやつだ。
(何だったんだ? アイツ……?)
 少し考えてみる。
 あの『男』は言動からしてインデックスを狙っていた。インデックスを狙うということはあの男も当然魔術師――と思いたいのだが、どうも納得がいかなかった。
それはある『単語』が引っ掛かっていたからだ。
 ボス。
 たしかにあの『男』は言った。
『ボス』という単語を。
この『ボス』という単語がどうも引っ掛かる。
 魔術師にも一応上下関係というものはある。だがそれは、お偉い主教様だったり、教皇と呼ばれる人物だったりとわりと稀なケースでしか適応されない。魔術師の間には基本的には上下関係というものは存在しないのだ。敬意をこめて『様』くらいつけることはあっても『ボス』なんて呼び方はしないだろう。
 そんなことを考えていると、上条は不意に自分の左手に違和感を覚えた。さっきはポーカーフェイスをするのに必死で気がつかなかったが、よくみると掌(てのひら)は閉じていて、中に何かが入っている。
(……?)
 ゆっくりと掌を開ける。と、
 
 
 眼球があった。
 入っていたのはまだ新鮮な血を残した人間の目玉だった。

 

「な⁉」
 上条は咄嗟に左手に入っていた人間の目玉をはらい落とす。
(なんだ……これ⁉ 確かに手は握っていたのに……!)
 全身に強烈な悪寒が稲妻のように走る。額から足の先まで気味の悪い汗が噴き出し、
「『土御門元春(つちみかど もとはる)の右目』だぜ……汗をかいたな」
瞬間、後方から声がした。
 それは聞き覚えのある声。上条はまるで何かに操られたようにおそるおそる後ろを見ると……、
「どうせ、意識がねぇんだから持って来たんだ」
先刻の『男』がいた。
『男』は上条のその様子に対し、真っ直ぐ顔を近づけると、
ベロン、と上条の頬を――汗を何のためらいもなくねぶりあげた。
 上条には驚きと恐怖のあまり、現在の感情を言い表わせるような言葉が、無い。
「…………、」
『男』は少し黙って顔を顰(しか)めると、
「この味は! ……ウソをついている『味』だぜ……上条当麻!」
 
 
(なんだこれ……。クソッ! いったいどうなってやがる
 上条は己の手と己の手から転げ落ちた眼球に順番に目をやる。
(いったいどうやったんだ? こいつは?)
 手品……か。いや、違う。上条は確かに手を握っていた。どんなに高度なトリックを使用していようが、どんなに卓越した技術を持っていようが、握った手の中に入れるなんてことは不可能だ。
 じゃあ、この『男』が使用しているものは……
(魔術……、か……)
 この『男』はインデックスを狙っている。ということはやはり、
(ん? 待てよ……)
 上条は一旦巡らせた思考を止める。
 コイツはおそらく魔術師だ。だが、この『男』が使うものはどことなく自分の知っているような『魔術』ではない。
 目玉を閉じた手の中に入れる。この行為の原理はおそらく、学園都市における超能力の一つである『空間移動(テレポート)』に近いことをやったのだろう。しかし『空間移動(テレポート)』というのは先述のとおり超能力だ。魔術師は超能力を使えない。魔術師が超能力を、超能力者が魔術を使用すると、使用者の体に多大なダメージを与えるからだ。けれども、目の前の『男』にはダメージを負っている様子は無い。やせ我慢をしている様子も無い。つまり、目の前の『男』が超能力を使用している可能性は無くなった。
となれば上条が知らない魔術だろうか? 上条は超能力については結構把握しているものの、魔術についてはあまり詳しくない。彼の知らない『空間移動(テレポート)』のような魔術が使われていてもなんら不思議では無いが、それではかなり科学じみている。それに魔法陣を用意した様子や何か特別な文字を使った様子も感じられない。したがって、これも却下。奴はたぶん魔術も使っていない。
 では、『男』は一体何をしたのか? どんな『力』を使ったのか?
疑問が残る。上条はその得体の知れぬ『力』に身を強張(こわば)らせた。
「おやおやおやおや……」
 『男』はとことん冷静な様子で、上条に迫る。
「質問は以上だと言ったが、状況が変わって来たな『上条当麻』。おまえはウソを言った! 『インデックス』を知らないとな」
 言うと『男』はゆっくりと己の右腕を挙げながら、
「じゃあ何故ウソをつくのか? その理由を聞かせてもらわなくてはならなくなったってわけだな……ン?」
 言葉と同時。
 挙げられた『男』の腕が、上条の頬に振り下ろされた。
 ブッ……、と。上条は声を上げ、その場に膝をつく。
「おれの名はブローノ・ブチャラティ。答えろよ。質問はすでに……『拷問』に変っているんだぜ」
 上条は己の口から流れる血を拭いながら毒気づく。
(ちくしょうが……! いったい何なんだよコイツ⁉ それに何が目的でインデックスを――)
そこまで考えて、急に思考が止まった。
(何だ……この感触は?)
 正確には、違和感によって思考を遮られた、といったところか。場所は口から。ブチャラティに殴られた瞬間から感じたものだ。そこからはヌメヌメとした感触があり、ひんやりと冷たい何かが、上条の知らないうちに口の中へ入っていた。
 彼は慌てて異物を吐きだす。と、その正体は、
 指。
 紛れもない本物の人間の『指』。
「うげっ……!」
 上条は胃袋からこみ上げる吐き気を堪えながら、必死で荒い息を整える。
 指、なんてものは本来、手に繋がっているものだ。だが、上条が吐きだしたのは血がべっとりと付着し、切断されて血が通っていない冷たい指。そんなもの見ただけで大抵気分が悪くなると思う。案の定、上条も吐き気をもよおしたようだ。ましてや彼は口の中へ入れられている。
 得体の知れない、ブチャラティの能力で。
「どうだい? ブルっちまう特技だろう? そいつは『土御門元春の指』だ。俺はウソを見抜く特技のほかにこういうこともできるんだぜ」
 たとえば、とブチャラティはすぐそばの消火器を見て、
「この消火器だってお前の口の中へ入れることができる。さっきの指と同様にな。まぁもっとも、そんなことをすればお前は死ぬがな……」
 どうにかしなければ、と上条は打開策を考える。しかし、良い策がなかなか思いつかない。なんせここはケーブルカーの中だ。外であるならば有効な手段はいくつかあるのだが、どうにも使えそうにない。せめて外に出ることができれば……。
思って、なんとなく横手の窓を見る。
(……! これは……⁉)
 思わぬものを、見た。
 ジッパー。それは上条の左頬から首にかかってついていた。信じられないことだが、確かにジッパーである。そのジッパーはわずかに口が開いており、小物程度のものなら入れられるようになっている。ブチャラティはここから上条の口の中に指を侵入させたのだ。
 これで奴の能力の謎は解けた。そして、
同時に『あること』を思い出した。
(……………………………………)
 上条は先程吐きだした『指』に目をやる。
 たしかにブチャラティは言ったはずだ。
『どうだい? ブルっちまう特技だろう? そいつは「土御門元春の指」だ。』
 そして、その前も言ったはずだ。
『「土御門元春(つちみかど もとはる)の右目」だぜ……汗をかいたな』
 そう、ブチャラティは始末したのだ。
 土御門元春を。
「……、なんでだよ」
「なに?」
「なんで土御門に手を出した⁉」上条は思い切りブチャラティを睨みつける。「たしかに、アイツは俺の知らないところでいろいろと危険な事をしていた。おそらく法を犯すようなことも何度もやって来ただろうと思う」
 だがッ!
上条は続けて、
「今回、アイツは関係ねぇだろうが! 土御門が何をした? なのに、なんで始末しなくちゃあいけねぇんだ! あんた個人の目的だけにッ!」
 上条の言葉にブチャラティは少し黙っていたが、やがて口を開いた。
「土御門元春。あの男は大いに関係がある。あの男を始末したのは、あの男が俺達ギャングを――『パッショーネ』のことを嗅ぎまわっていたからだ」
 今の言葉。上条は驚愕した。
「ギャングだって? あんた、魔術師じゃあねぇのかよ⁉」
「おいおい、勘違いしないでくれ。たしかに俺の知り合いに魔術師は何人かいるが、俺は違う。それに、今回『禁書目録』について命令を下したのもソイツらじゃあない」
 ブチャラティは魔術師ではない。
 ブチャラティはギャングだった。そして先程の『ボス』という単語。
 ここでようやく、上条は合点がいった。
「そして……」
ブチャラティは一つ間をおくと、凍りつくような声で、
 
 
「魔術師じゃあない俺には『禁書目録』の価値や使用用途など何一つわからない。興味も無い。俺はただ、『禁書目録を探せ』という命令に従って動いているだけだ」
 
 
 その言葉は恐ろしいほど淡々とした口調で、ブチャラティの口から漏(こぼ)れた。
 上条の思考が、一瞬にして真っ白になる。
 が。
「…………、」
我に返るとそこには、
ブチャラティを許すことのできない、自分がいた。
「ふざけんな……」
「なに?」
「ふざけんな! 価値も知らねぇし興味もねぇ、だと? あんた、インデックスが人間だってこと知ってんだろ? どうしてそんなことが平気で言える!」
 上条当麻は叫ぶ。
伝えたいことがあるからこそ、彼は叫ぶ。
「命令だが何だか知らねぇが、土御門のことにしても、インデックスのことにしても、そんなくだらねぇ理由で正当化できると思うな! 少しは狙われたアイツらの身になって考えろッ!」
ブチャラティはおそらく、『自分が動く理由』や『現在置かれている状況』を何も知らない上条に冷静に説明しようとしただけだろう。
 しかし、それが上条の火に油を注いだのだ。
「……、俺はあくまで彼女の『魔道書図書館』としてのことを言ったまでだ」
 グッ、とブローノ・ブチャラティは右手を握りしめる。
「俺には『命令』というれっきとした動く理由がある! お前がくだらないと言った『命令』がな。俺はそれに従わなくちゃあならないんだッ!」
 ブチャラティは初めて、上条に対し怒りをあらわにした。
「俺達ギャングはガキじゃあない。嫌なことでも、辛いことでも我慢してやらなくちゃあならないんだ。だがッ! お前はそれを『侮辱』したッ‼」
 まるで、上条を吹き飛ばすかのような、圧のこもった声で、
「俺達は『侮辱』に対しては命を賭ける! それは『プロ』であるギャングを名乗る上で必要なことなんだ。お前にはわかるまい! いったい俺達がどんな気持ちで任を負っているのかをッ!」
 上条はブローノ・ブチャラティ――ギャングのことを何も知らない。
 そして彼がどんな気持ちで、ここにいるのかもわからない。
「ああ、わからねぇよ。さっぱりな。ギャングのことはもとより、あんたが信じているもの、あんたがこの街へ来た意味。そしてインデックスを狙い、土御門を手にかけた理由がな」
「だから、何度も言っているように『命令』だと――」
「違うッ‼」
 上条はブチャラティが言いきる前に、それを遮る。
「あんた自身はどうなんだ! 『命令』とか『プロ』だとか、そんなもん一切関係なく、あんたという『人間』自身の『意思』はどうなんだ?」
 胸の内にあるものを吐き出すように、上条は問う。
「今のあんたは自分に正直なのか? 本当に素直になれているのか?」
 ブチャラティはこの件、『命令』で行動している。
 『命令』ということは、そこに私情や勝手な感情を持ち込むことは許されないはずだ。
 でも。
 もし仮にこの場で『命令』が無かったとしたら。ブチャラティを縛るものが無かったとしたら。
一体、彼はこの場でどんな行動をとっただろうか?
「やはりお前は何もわかっちゃあいない。いいか、俺達の世界で『命令』は絶対。すなわち上の言うことは絶対なんだ! これは俺達にとっての『ルール』であり、『正義』なんだッ!」
「命令に従うことが……『正義』……だと?」
 聞いて上条は、それを鼻で笑い飛ばした。
「何がおかしい!」
「おかしいさ。『命令』に従うことが『正義』? 笑わせんなよ。だったらあんたの『正義』は相当に安っぽいよ。あんたはただ命令に従うだけだ。願いや思いも押し殺して、ただ機械のように動くだけだ」
 正義。その本質がどんなものなのか、上条にはわからない。何が善で何が悪なのかもわからない。
 それでも、譲れない思いが彼にはある。
「自分の意思で動こうとしない。自分でやるべきことを探そうとしない、見つけようとしない、考えようとしない。そんなもんの何が正義だって言うんだ! それなら何もしないほうがよっぽどマシだ!」
 ブチャラティはこの件、『命令』で行動している。
 しかし、それは上条当麻にとって納得いかなかった。
 己の私利私欲、目的のためではなく、
『命令』というその事実に。
「あんたは、誰のために動いている?」
 自分はインデックスという一人の少女のために、この男の前に立ちはだかっている。
 上条は己の中で、そう確信していた。
「あんたにとっての『正義』がそんなもんなんだったら!」
 だから闘う。
 あの少女のために。
「まずはそのふざけた幻想をぶち殺すッ‼」
 
 

 ギュッ、と。
 上条は己の右手を握りしめる。
「……、」
 上条は決してケンカが得意なわけではない。一対一でも辛いときは辛く、二対一では苦戦は必至。相手が三人以上になれば迷わず逃げる。
 今回に至っては、相手は一人といえどもギャングである。彼がいつも相手をしているような街の不良共とはまるで違う。もしかしたら怪我程度では済まない事になるかもしれない。
だが。
(負けるわけには……いかないんだ!)
 硬く握った右の拳に目をやる。
 幻想殺し(イマジンブレイカー)。
 右手に宿ったその力。それは、異能の力をすべて無効化にする。
 先程ブチャラティはジッパーの能力を用いた奇妙な攻撃を繰り出した。攻撃の内容としては牽制程度にすぎないものだったが、銃やナイフといった凶器ではなく、優先してその能力を使用した。まるで、上条に己の恐ろしさを見せつけるかのように。
 おそらく、それがブチャラティの『切り札』になんらかしら繋がっているはずだ。つまり、右手でその能力を叩けば良い。
 勝機は決して――
(――ゼロじゃあない!)
 上条とブチャラティ。互いの距離は約二メートル強。
 瞬間、上条は大きく踏み込み、その距離を縮める。拳打を喰らわせるのには十分すぎる距離。ブチャラティを見据え、突き刺すかのように右手を出し、
「迂闊(うかつ)だな」
 直後、上条の体が沈んだ。
「がッ……!」
 衝撃。正面から勢いよく突き刺さったブチャラティの拳に、上条の体には電撃を彷彿させるような刺激が駆け回る。まるで、電線に直接触れたような感覚だった。
「『手の内がわからない相手に対しては突っ込まない』。これはお前たち『素人』の間でも基本中の基本じゃあないのか? それとも、この程度のことも心得ていないのか?」
 朦朧とする意識の中、上条はおそるおそる己の腹に視線を向ける。と、
 ジッパー。
 ブチャラティの拳が当たった場所。そこには、ジッパーによって握り拳一つ分くらいの穴が開けられており、そこに文字通り拳が『突き刺さって』いた。
 彼は今、大したことはやっていない。
 単に殴りかかって来た上条の動きを捉え、その勢いを利用してカウンターのボディーブローを打ち込んだだけだ。そこには多少なりとも技術があったかもしれないことは否めないし、能力があったとはいえども、とりわけ複雑なことをしているわけでは無いはずだ。
 ケンカ一つでもここまで違う。
 上条当麻とブローノ・ブチャラティ。学生とギャング。素人とプロ。
 二人の差は歴然だった。
「ちっくしょう……」
床を背に仰向けに倒れながら、上条は荒い息をする。
 そんな上条とは対照的に、ブチャラティは呆れたように深い息を吐く。
「『ぶっ殺す』ってセリフは終わってから言うもんだぜ。俺達ギャングの世界ではな」
 上条にはまだ闘う気力はある。
 インデックスを守りたいという想いもある。
 しかし、さっきの一撃が効いており、思うように体が動かない。
「くっ……」
「あまり喋らないほうがいい。その様子だと呼吸をヤられてる。自分の首を絞めるだけだぞ」
「うるせぇ……よ」
「やれやれなヤツだな。だったら今すぐ楽にしてやろうか?」
 この状況、思わず上条は唾(つば)を呑む。
 思うように体が動かせない。一時的ではあるが、闘い――ケンカでは、それは負けと同じようなものだ。要するには戦闘不能。
 そして。
「ぐっ……」
素人の上条当麻でも、それくらい理解できる。
 今の状況の先に待っているものが何であるかを。
 ぎゅう、と上条は目を瞑(つむ)り、
(「スタッグ」)
ブシュリ、と。
 体の皮膚が裂けるような音を感じた。
 それは、上条の体が裂けた音ではない。
 
 
 それは、ブチャラティの右手が裂けた音だった。
 
 
「えっ……?」
 己の顔面に滴(したた)る血に、上条はびっくりして目を開けた。
 ブチャラティの右手には斜めに亀裂が入っており、そこから血が流れ出ている。大した怪我ではない。だが、突然の事態だったせいか、彼は少し目を丸くした。
 機械的な音が宙に鳴る。見ると、通常の携帯電話のサイズよりも少しばかり大きめのクワガタムシが彼らの頭上の空中を泳いでいた。
クワガタムシは機械で作られたもので、それをモチーフにしているかどうかは不明だが、どう見てもクワガタムシにしか見えない。クワガタムシはしばらくブチャラティを威嚇するかのように飛び回ると、彼の顔の横を通り、ちょうどケーブルカーの乗車口のほうへ飛んで行った。
 二人はそれを目で追う。すると、そこには、
 
 
 一人の男が立っていた。
 
 
 年齢は二〇歳ほど。黒を基調としたハードボイルド調の服を着ており、彼の被る帽子が良く似合う。そして、どことなくただ者でないオーラを漂わせていた。
 男は言う。
「何してんだアンタ? 相手はどう見ても子供だろ」
「見ての通りだよ。何だ? 羨ましいかい?」
「いいや、ちっとも羨ましくないな。それより――」
男は口調を強め、
「アンタさっき、自分のこと『ギャング』っつたよなぁ? たしかに俺の耳は聞き取ったぜ。そんな『業界』の人間が公衆の面前でこんな事やっていていいのか?」
 男の言葉に、ブチャラティは小さく舌打ちをする。彼は眉をひそめて、
「なにかなぁ君は? この街の治安組織の者か?」
「そんな大層なモンじゃあない。俺はこの街に生きる探偵・左翔太郎(ひだり しょうたろう)さ」
「探偵……だと? で、俺に何か用でもあるのか?」
「ああ、大アリだとも」翔太郎はブチャラティの膝下にいる少年――上条当麻を指差して、「ソイツを解放してやれ。事情は今来たところでよくわからないが、少なくともここで『ケリ』をつけるのはよくないはずだ」
 突如として現れた男、左翔太郎。彼の様子や言動から察するに、おそらく今の状況をよく把握できてはいないだろう。だがそんな中、冷静すぎる態度でこの場を仕切る探偵に、ブチャラティは苛立っていた。
 彼は上条を指しながら、
「言っておくが俺はコイツに用があってこんなことをしているんだ。ウサ晴らしや個人的な感情で殴ってるんじゃあない。それと、できるだけ事は早く済ませたい。第三者は口を挿(はさ)まないでもらいたいな」
 聞いて翔太郎は少し黙る。ブチャラティがギャングだとわかっている以上は彼の言うことはそれなりに理解できる。任務を背負って少年に手を出したというのも納得できる。
 けれども。
「いいや、お断りだ。何人たりとも、この街を泣かせる奴は許さねえ」
 翔太郎はこの街を愛している。
 街の空気、街の景色、街の人、街の花……。すべてをひっくるめて、翔太郎はこの街を愛している。
 だから、黙って見ちゃあいられない。
 目の前の人が苦しんでいるのを。
「とりあえず、話を聞かせてもらおうか。まず、アンタが今どうゆう理由でそいつを殴ってたのか。それと――」
『翔太郎』
 声。それは翔太郎の探偵事務所にいる相棒、フィリップのものだった。
 彼らは今、とある理由により意識のみで会話ができる。
「(どうしたフィリップ?)」
『目の前の男は――たしか、ギャングなんだよね?』
「(あぁ。そうらしいが)」
『だったら、彼の所属している組織はおそらく「パッショーネ」だ。もしかすると、「ガイアメモリ」のことについて何か聞き出せるかもしれない』
 その言葉に一瞬、翔太郎は沈黙するが、
「(あぁ。わかってる)」
 静かに言って、会話を切った。
「さて……、と」翔太郎は、ふぅ、と短く息を吐くと、「どうやらアンタにこれ以上頼んでも話してくれそうにないな」
「当たり前だ。何故に突然現れた第三者の君に話さなければならない。わかったらさっさとここから去ってくれ」
「…………」
 翔太郎はすでに確信していた。
 この事態、収拾をつけるにはもはや一つの方法しかないと。
 最も手っ取り早い、『あの方法』で。
「ま、いいわな……」
 口の中で小さく呟くと、探偵は帽子の位置を整えて、
 
 
「俺が勝ったら、話を聞かせてもらうぜ」
 
 

 翔太郎は黒いUSBメモリ状の物体――ガイアメモリを取り出し、
「いくぜフィリップ」
 それに取り付けられた小さなボタンを押す。
(「ジョーカー!」)
 一方、探偵事務所にいるフィリップも翔太郎の声を合図に、同じくUSBメモリ状の物体、緑色のガイアメモリを取り出した。
 彼も翔太郎に倣(なら)い、その小さなボタンを押す。
(「サイクロン!」)
 そして、彼らは同時に、
「「変身」」
 翔太郎は上着に隠れていたベルト、フィリップは翔太郎との連動によりあらかじめ装着していたベルト、『Wドライバー』にそれぞれのガイアメモリを挿(さ)し込む。
 フィリップが挿し込んだ『サイクロンメモリ』が翔太郎のベルトの片方の挿し口に現れる。翔太郎はそれを挿し込み直すと、自分が持つ『ジョーカーメモリ』をもう片方の挿し口に挿して、
(「サイクロン! ジョーカー!」)
 巻き起こる風と共に、仮面ライダーWに変身した。
「……………………」
 上条とブチャラティはもとより、ブチャラティに怯えて口を出せずにいた他の乗客たちも、その光景に目を丸くする。
(一体何なんだ……これは……)
 上条は耳にしたことがある。学園都市における都市伝説の一つを。
 仮面ライダー。おもに学園都市・風都地方に現れる神出鬼没の存在。その実態は謎が多く、正体を知る者も数少ないという。なんでも、異形の姿をした怪人と戦っているとか……。
 都市伝説。ここは最先端の科学を取り扱い、超能力開発を行う唯一無二の街、『学園都市』。しかしながら、幽霊だのポルターガイストだの非科学的かつ非現実的な噂が山のようにある。これは、どこまでが冗談でどこまでが本当かはわからないが、一応、『学園都市の伝説』、すなわち『都市伝説』となっているのだ。
 内容としては先述のものをはじめとし、みんなお馴染み『トイレの花子さん』からローカルすぎるものまで多種多様。けれど、ここはあくまで科学の街、『学園都市』だ。本気で信じている者は街の総人口の半分未満。それも物好きなヤツらばかりだろう。高校生・上条当麻ももちろん信じちゃあいない。いくら魔術との関わりがあるからといって、そんなものを信じる気は無い。特に『仮面ライダー伝説』は最も胡散臭いものの一つとして、街中の学生達から挙げられていた。
 しかし。
 嘘だと思っていたものは、目の前にいる。
 緑と黒で彩られた、仮面ライダーが。
 ふと上条は、己の腕――皮膚を見つめる。異様な感覚がしたからだ。いや、腕だけでは無い。胸、背中、足、体中のいたるところが、その感覚を訴える。
 寒気にも似た感覚。それは『鳥肌』だった。上条の全身は鳥肌が総立ちし、気味の悪い脂汗が流れていた。興奮によるものなのか、恐怖によるものなのか、それは彼自身でもわからない。
だが、
 どちらにせよ、目の前の事態に驚きを隠せずにいた。


TO BE CONTINUED


次回予告
上条 「え、と……。ソイツは、俺の家に居候してる女の子なんです」
翔太郎(なんだコイツ……)
フィリップ『さっきの彼……「スタンド使い」だ』
上条「せめてお前に、一撃浴びせたかったッ‼」
次回の学園都市の日常・魔術サイドは第4話。お楽しみに!
PR
Comment
              
Name
Title
Adress
URL
Comment
Color
Emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Secret 管理人のみ閲覧できます
Password   
* コメントの編集にはパスワードが必要です
変更
by luke 2012/06/19(Tue)15:52:50 Edit
変更するのです。

出典
※BGM1『アバン』(アニメ ボボボーボ・ボーボボより)
※OPおよび挿入歌『flying』(GARNET CROW)
※BGM2『殺人レコード恐怖のメロディ』(アニメ チャージマン研!より)
※BGM3『ブチャラティのテーマ』(ゲーム ジョジョの奇妙な冒険 黄金の旋風より)
※EDおよび挿入歌 『Tactics』(THE YELLOW MONKEY)
※BGM4 『名探偵コナン メインテーマ(次回予告ver.)』(アニメ 名探偵コナンより)
あとがき
by Sgt.LUKE 2010/07/15(Thu)23:57:32 Edit
どうもみなさんお久しぶり。
え、と…。まず一つ言いたいこと


更新が遅ェェェェェェェェェェェェェェッ!!


ごめんなさい。ホントごめんなさい。なにしろ執筆以外のこともしてたからこんなに遅くなってしまった…。前回の投稿から3カ月近い月日が流れてる。ってことは4月から始まった1クールアニメはもう終わってるわけでして。

もともと3話は、次に投稿する4話と合わせて『3話』の予定でした。つまりこれは最初想定してた3話の半分。もちろん、次の4話も本来の『3話』の後編。コイツは絶賛執筆中なのでもうすぐ投稿できます。ちなみに何故半分にして投稿することになったかと言うと、もちろん、長いからです。

更新ペースは正直早くないです。でもがんばって書きますし、なるべく一回の量を減らして更新しようかと…(理由は今回みたいに墓穴掘るから)

こんなもんですが、これからも幾久しくよろしゅうに

『俺が勝ったら、話を聞かせてもらうぜ』って翔太郎…。魔砲少女かwww
Copyright ©  -- teamBDRの軌跡 --  All Rights Reserved
Designed by CriCri Material by 妙の宴
忍者ブログ  /  [PR]