学園都市の日常・科学サイド 第11話

第11話｢佐天の空とB／闇へようこそ｣

 

作者　Joker

佐天は雨宿りをしていた。

突然降り出した豪雨に対し、傘を持っていなかった佐天は仕方なくそうしていたのだった。

｢あ～もう･･･制服とかビショ濡れだよ･･･いつ止むかなあ･･････｣

思わず逃げ込んだ長石トンネル（風都地区にある地下トンネル）の中で佐天はタメ息をついた。

その時、佐天の方に近づいてくるハイヒールのコツコツとした足音が聞こえてきた。

足音は佐天の目の前で止まる。

｢あなた･･･私に何か用ですか?｣

足音の主は佐天に何かを差し出す。

｢あなたにこれを受け取って欲しいの。｣

それはUSBメモリのようなものだった。

学園都市の都市伝説に詳しい佐天はそれがガイアメモリだということにすぐ気が付いた。

｢どうしてこれを私に･･･?｣

｢特に理由はないわ。ただ、ここにいたのがあなただったというだけよ。ラッキーよ・・・あなた。｣

佐天はガイアメモリを受け取った。

危険なものだという話は聞いていた。だが受け取ってしまった。

ほんの少しの興味で。

それが佐天の苦悩の始まりだった。やがてそれは学園都市を巻き込んだ大事件へと発展する。

佐天にガイアメモリを渡した“黒い服の女”は静かに笑っていた･･･

 

6月も中旬に差し掛かった頃、

翔太郎は風都理容に散髪に行っていた。

｢イテッ イテッ

ちょっとおやじィ!そのカミソリ切れ味悪いぜ。ちゃんと研いでくれよ。ちゃんとォーっ

散髪の中で一番気持ちいいとこなんだからよぉー｣

｢そーかい?すまないねえ。｣

翔太郎は非常にリラックスした気持ちで髭剃りを受けていた。

｢ちょっととなりのお客さん。｣

翔太郎はふいに隣の席の客に声をかけられた。

しかし髭剃り途中で、しかも翔太郎は目を閉じていたので相手の顔はわからなかった。

｢何だ?｣

｢いや、たいしたことじゃあないんだがね。

ただ店長に対するさっきの態度･･･もしかしてこの店の常連かなと思ってね。｣

｢ああ、たしかに俺はこの店の常連だぜ。だって風都で床屋といやぁ風都理容だろう。｣

｢君もそう思いますか!?私もこの店の常連だよ。

やはり真の風都通たる者ならば床屋は風都理容を利用しなくては!｣

｢へ～、あんたも風都通か。じゃあ風都で書店といえば?｣

｢ウイン堂｣

｢じゃあ焼肉食うなら?｣

｢ふ～ふ～ハウス｣

｢それならお菓子買うなら?｣

｢涼風屋（りょうふうや）だろう。あそこのおばあちゃんはいつも300円くらいおまけしてくれる。｣

｢あんた最高だ!初めてだぜ。あんたほどの風都通に出会ったのは!｣

｢フフフ、当たり前だ。わたしはこの風都を愛している。

ちなみに風都のマスコットキャラクター“風都くん”を作ったのは私だ。｣

｢マジでっ!?｣

｢私が小学3年生の時にコンクールに応募してねえ、見事入賞したわけだよ。

その時50個だけ作られた風都くんキーホルダー限定版を私は2個持っている。｣

｢すげぇーーーーーーーーーーーーッ!!｣

｢君に1個あげようか?君ほどの風都通にはぜひとも受け取って欲しい。｣

｢マジかっ!?だったらぜひとも受け取らしてもらうぜッ!

・・・ところであんた、どっかで聞いたことあるような声だな。｣

｢私もだ。君にどこかで会っているような気がする。今は髭剃り中で顔が見えないが･･･｣

｢お客さんたち。髭剃り終わったよ。｣

そう言われたので2人はお互いの顔を見た。

｢あっ!お前は･･･｣

翔太郎は息を呑んだ。

隣にいたのは霧彦だったのだ。

｢霧彦･･･お前･･･｣

｢探偵･･･そうか、あなたも真の風都通でしたか･･･｣

 

2人は散髪が終わったあと、近くの神社にいた。

｢霧彦･･･お前ほどの風都通が何故ガイアメモリなんてものを流通させている･･･｣

｢私は子供の頃･･･いじめを受けていた。無能力者だったからだ。

力無き者が虐げられる世界･･･それが現在（いま）の学園都市だ。

私はそんな現在（いま）の学園都市を変えたくてガイアメモリを流通させている。

ガイアメモリは全ての者に平等に力を与えてくれるからなあ･･･｣

｢たしかに、お前の言ってることは正しい。だが、それでもガイアメモリは危険すぎる。

ガイアメモリを流通させているお前なら、子供たちが安易にガイアメモリを使って傷ついているのを知っているだろう?｣

｢そうだ。現段階でのガイアメモリはパワーが強すぎて使用者に多大な悪影響を出してしまう。

ガイアメモリを買うのは大抵が心の腐った大人だ。そいつらがどうなろうと私の知ったことではない。

だが子供は別だ。子供たちの心は純粋で、常に成長を続けている。

それで我々には“子供にはガイアメモリを売らない”という決まりがあるのだが･･･

我々の組織の中にその決まりを破っている者がいる。｣

｢何!?｣

｢私はそいつを許さない。必ず見つけ出してやる･･･

･･･ところで、戦いたいのなら相手になってやるぞ。君はあくまで私の敵だからなあ。｣

｢･･･いいや、遠慮しておく。今はそんな気分じゃねえ･･･｣

霧彦はその場から去って行った。

 

―風都地区内のとある河川敷の橋の下

佐天は1人たたずんでいた。

―バード!―

佐天は左腕の生体コネクタにバードのガイアメモリを突き刺した。

すると佐天の体はバード･ドーパントに変化した。

｢すごい･･･本当に変身した･･･｣

佐天は水溜りをのぞきこんでつぶやいた。

佐天は橋脚に軽く蹴りを入れてみた。

バゴォオオンッ

軽く蹴ったにしては大きめのクレーターが橋脚についた。

｢力もものすごくパワーアップしてる･･･｣

佐天はまるで遠足に行く前の日の夜の子供のようにうきうきした気分になってきた。

佐天は腕を鳥のように動かしてみる。

佐天の体が宙に浮いていく。

そしていつの間にか佐天は風都タワーを見下ろすほどの高さに到達した。

｢飛べる･･･私は、この空を飛べる!｣

雨上がりの曇り空の下で佐天はつぶやいた。

 

―ある日のこと

｢翔太郎さ～ん、ジャッジメントから依頼ですの～｣

｢ああ?白井かあ。何の依頼だ?｣

｢最近、ここいらで不良たちが謎のドーパントに襲われる事件が多発していますの。

早急に調査してくださいまし。｣

｢不良が襲われる事件かあ･･･

おそらく不良どもにいじめられていた奴がガイアメモリを手に入れて復讐を始めたんだな･･･｣

“｢私は子供の頃･･･いじめを受けていた。無能力者だったからだ。
力無き者が虐げられる世界･･･それが現在（いま）の学園都市だ。｣”

翔太郎の脳裏に先日かわした霧彦との会話がよぎる。

｢どうかなさいました?｣

｢いいや･･････フィリップ!｣

翔太郎は白井から現段階でわかっている情報を聞き出しフィリップに検索してもらおうと考えた。

しかし、

｢静かにしてくれ、翔太郎。もうすぐ若菜姫のヒーリング･プリンセスが始まるんだ。｣

ヒーリング･プリンセスとは、学園都市で大人気のアイドル園咲若菜、通称 若菜姫が毎週やっている、風都のラジオ局ウインドウェーブの人気番組である。

学園都市の人たちのほとんどがこの番組を聞いており、フィリップもこの番組の熱狂的なファンであった。

｢お、始まるぞ。｣

｢“園咲若菜のヒーリング･プリンせース!

今日はリスナーの皆さんからのお便りを紹介しようと思います。

まず最初のお便りは、P.N（ペンネーム）遊星より愛をこめてさんからです。

―若菜姫、わたしは最近変なものを見てしまいました。

怪人が空を飛んでいたのです。

友達もそばにいました。みんなそばにいました。でも・・・・・・わたし以外誰も見ていないのです・・・

ほんの少しの間でしたが確かに見ました･･･その怪人が見えたのはたった数秒だったのです・・・

わたしの視力は1.5です。

でも何が起こったのかわかりません!自分でも半信半疑です･･･―

なるほど～、最近多いですねえこの話題。“謎の空飛ぶ鳥人”!

いいですねえ、わたしも見てみたいです･･･”｣

｢“謎の空飛ぶ鳥人”かあ･･･興味深い･･･｣

フィリップがつぶやいた。

｢･･･そういえば、襲われた不良たちは鳥のような怪人に襲われたと言っていましたわ。

もしかしてその“謎の空飛ぶ鳥人”が犯人･･････｣

｢ああ、たぶん関係あるな。さっそく調査開始だ。｣

 

翔太郎は“謎の空飛ぶ鳥人”を調査するため、都市伝説に詳しい佐天に会うことにした。

しかし、普段佐天がいそうな場所全てをあたってみたが、どこにも佐天の姿は無かった。

｢おっかしいな～、初春に聞いても知らないって言われるし･･･学校も最近なぜか休んでるって言われるし･･･｣

翔太郎は途方にくれていた。

その時、河川敷の橋の下に佐天らしき人影を見つけた。

｢まさか･･･!｣

翔太郎はかけだした。

｢佐天!｣

佐天はふいに自分の名前を叫ばれて驚く。

と同時に、生体コネクタにさそうとしていたガイアメモリを即座にしまった。

｢しょっ･･･翔太郎さん･･･いったいどうしたんですかぁ･･･?｣

佐天はあせりながら答えた。

｢お前こそどうしたんだ。初春や学校から姿をくらまして･･･

こんな場所で何やってんだ?最近豪雨が続いてっから危ねえぞ。｣

｢そっ･･･それは･･････｣

佐天は言葉に詰まる。

その時、ピシャリ ピシャリ　と水溜まりを踏む足音が2人に近づいて来た。

｢君が･･･佐天涙子だね?｣

｢お前･･･霧彦･･･｣

近づいてきたのは霧彦だった。

｢お前･･･佐天に何か用か?｣

｢ああ、佐天さん･･･君は“黒い服の女”にガイアメモリをもらっているね?｣

｢何ッ!そうなのか･･･佐天･･･!｣

佐天は何も言わない。

｢私の調査でわかった。子供たちにガイアメモリを渡していたのは“黒い服の女”･･･私の妻だ･･･!｣

｢なに･･･どういうことだよ･･･霧彦･･･｣

翔太郎が問う。

｢妻がガイアメモリを渡した相手のリストを私が偶然発見し、一番最近渡した相手･･･それが佐天さん、君だったわけだ。

だがわからない･･･何故妻がそんなことをするのか･･･｣

霧彦の表情には苦悩が満ちている。

｢佐天･･･本当なのか?｣

｢ええ、翔太郎さん、本当ですよ。確かに私は“黒い服の女”からガイアメモリを受け取りました。｣

佐天はバードのガイアメモリを2人に見せる。

｢そいつをこっちに渡せ･･･佐天。｣

｢翔太郎さん･･･私、今まで嫉妬していました。

レベル5の御坂さんやレベル4の白井さん、スタンド使いの承太郎さん、

そして仮面ライダーの翔太郎さん･･･みんなすごい力を持っている。

でも私は持っていなかった。だから何もできなかった。

でも今は!今はこのガイアメモリがある!この力で、私もこの街を守ることができる!

だから救うんです。私と同じように、無能力であることで苦しんでいる人たちを･･･!｣

｢だから自分の能力につけあがっている不良どもを襲っているのか。

だがやめろ!ガイアメモリを使っていれば･･･お前の体はいずれボロボロに･･･｣

｢別にかまいませんよ･･･英雄（ヒーロー）ってのは、自分を傷つけてでも他人を守るものでしょう?｣

―バード!―

｢変身。｣

佐天はバード･ドーパントに変身した。

｢私の邪魔をするというなら、たとえ翔太郎さんでもッ!｣

バード･ドーパントの羽が橋脚に向けて飛ばされた。

ボッグオンンンンンンンンッ!

｢フィリップ、変身だ。｣

翔太郎はW（ダブル）ドライバーを装着する。

―サイクロン!―　―ジョーカァーッ!―

｢変身!｣W｢変身･･･｣

仮面ライダーWの変身が完了した。

｢佐天･･･｣

Wはバード･ドーパントに向かってかけだした。

｢冴子･･･｣

霧彦はその場から去って行く。

空のかなたで雷が鳴っていた･･･

 

TO BE CONTINUED