学園都市の日常・科学サイド 第13話

第13話｢幻想御手（レベルアッパー）｣

 

作者　Joker 

―｢みなさんお願いです!佐天さんを探してください!行方不明なんです!

詳しいことはあとで説明しますから･･･とにかく手伝ってください!｣―

初春の必死の呼びかけによって、

仗助、黒子、億泰の3人は杜王地区で佐天の捜索をしていた。

｢佐天さん･･･いったいどうしちまったんだろうな。｣

｢さあな、何か重大な問題が発生したって気がするぜ。｣

心配そうな億泰に仗助が不安そうに答える。

｢･･･ところで仗助、さっきから私たち、誰かにつけられている気がしません?｣

｢―――ッ!?｣

場に緊張が走る。

｢マジかよ･･･俺たちがさっきから歩いているのは街の裏通り。

俺たち以外の奴がいたらすぐ気づきそうなもんだぜ!?｣

｢確かに。しかし、今は見えなくとも私たちをつけているものが必ずいますわ。

空間移動能力（テレポート）を鍛えるために極めた私の空間把握能力がそう告げていますわ。｣

｢じゃあそいつはどこにいるっていうんだよ?｣

黒子は後方を指差し、

｢あそこのダンボールの中ですわ。

あの中に入りながら私たちをつけてきていたんですわ。まったく、あんな子供だましで･･･

ダンボールの中のあなた、早急に出てきてくださいまし。

さもなくばダンボールが裁縫の針山のようになりますわよ?｣

ダンボールを勢いよく吹き飛ばし、中からすらりとした長身の男が現れた。

 

｢僕の尾行を看破するとは･･･やはりうわさに違わぬ優秀なジャッジメントのようだな、君は。｣

男は実に落ち着いていた。

｢なんなんですの、あなた?誰かの回し者?｣

｢いいや、違う。あくまで僕は自分の目的のために君たちを尾行していたに過ぎない。｣

｢自分の目的?･･･なんすかそれは･･･｣

場の緊張がよりいっそう高まる。

｢僕はつい最近、ものすごい力を手に入れた。

しかし、それを自由に行使するために邪魔になるもの･･･それがジャッジメントさ。

うわさでは僕が住む杜王地区のジャッジメントで一番の実力者は白井黒子、あんただと聞く。

頂点（トップ）を最初に倒してしまえばその下の者たちとの無駄な争いはある程度避けられる。

そこで･･･僕はこれから君たちを殺す。｣

｢やはりそういうことっすかッ!｣

｢来るならこいよ!黒子ちゃんには指一本触れさせねえ。｣

仗助と億泰が一歩前に出る。

｢白井黒子といつも一緒にいる2人の不良風の高校生･･･東方仗助と虹村億泰。

お前たちもスタンドとかいう厄介な力を持っているそうだから･･･

白井同様、お前たちも殺す。｣

｢てめーさっきから殺す殺すって言ってけどよー、てめーのどーせショボイ能力なんかよー

俺のクレイジー・ダイヤモンドで秒殺してやるっすよーッ!!｣

｢確かに、僕は数日前まではただのレベル1超能力者だった。

だが、さっき言ったものすごい力のおかげで、

僕はレベル5“幻想作師（イマジンクリエイター）”として生まれ変わったのさ!｣

｢“幻想作師（イマジンクリエイター）”!?｣

その言葉に黒子が反応する。

｢そんなこたぁ関係ないっすよォ!うおおおおォォォクレイジー・ダイヤモンドッ!｣

仗助が一直線に男に向かって突っ込んでいく。

｢待って仗助!その男の能力がもし本当に“幻想作師（イマジンクリエイター）”なんだとしたら･･･｣

しかし、その忠告は仗助には届かなかった。

｢もう遅い。滅べ。｣

仗助の身体を白い光が包んでいく。

｢仗助えェェェェェッ!｣

爆風が仗助の身体をはるか後方に吹き飛ばす。

｢フフフ、こいつはラッキーだ。回復役の東方を一番にやれるとはな。｣

男の前には青白い色をした龍がいた。

｢なっ･･･なんなんだよ･･･そいつはよぉ･･･｣

龍なんて生物は現実にはいない。ここはファンタジーやメルヘンの世界ではないのだ。

それが目の前にいる。億泰は驚きを隠せない。

｢こいつはブルーアンド･ホワイト･ドラゴン。僕の一番のお気に入り（エースモンスター）さ。

東方はこいつの最大最強必殺技･爆裂疾風弾（バーストエクストリーム）にやられた。｣

｢く･･･黒子ちゃん、あいつの“幻想作師（イマジンクリエイター）”ってよぉ･･･

いったいどんな能力なんだよ･･･｣

｢･･･“幻想作師（イマジンクリエイター）”は、自分の脳内の想像（イメージ）を現実のものに変える能力。

その能力は強烈極まりなく、想像力さえあればなんでも出来るまさに優れもの。

しかし、その強力さゆえか能力の適合者がなかなかおらず、仮に発現したとしても指導者が少ないためレベルアップが難しい能力ですわ。

学園都市にもこの能力者はたったの3人。それも最大レベルは2.

せいぜい手のひら大のものを生み出せる程度ですわ。

それがレベル5となると･･････まさに想像も出来ませんわ･･･｣

男は得意げな顔をしている。

｢さて、残りの2人もとっととしとめるか。よし、あの方法でいこう。｣

男の周りの空間が歪む。

そしてその中からすでに出ているのと同じ、ブルーアンド･ホワイト･ドラゴンがさらに2体出てきた。

｢なっ･･･!!｣

黒子と億泰は唖然とする。

1つの想像（イメージ）を操るだけでかなりの精神力を行使するという幻想作師（イマジンクリエイター）が、まさか一度に想像（イメージ）を3つも･･･

｢驚くのはまだ早い!見ろッ!｣

3体の体が闇に包まれひとつになる。

｢強靭!無敵☆最強!!これぞ究極の強さの想像（イメージ）!

ブルーアンド･ホワイト･ドラゴン3体連結だあッ!!

ふはははーーーすごいぞーカッコいいぞー!!｣

龍の姿は三つ首の禍々しい姿へと変貌した。

｢くっ･･･!醜く、醜悪な彼の内面が計り知れますわね･･･｣

｢冷静に奴を考察してる場合じゃあねーよ黒子ちゃぁんッ!｣

｢いいえ、十分重要ですわ。彼の能力は己の想像（イメージ）の具現化。

彼に強烈な敗北感を与えれば彼の能力は弱体化しますわ。

見たところ、彼は相当な自信家の様子。非常にくじかれるのに弱い。

彼が全力を出している今、私たちは逆にチャンスといえますわ。｣

｢そうか･･･!　･･･でもどうやってあの龍を倒すんだよ!｣

｢それを今考えていますわ!｣

（くっ･･･俺がやるしかねえ･･･黒子ちゃんの能力は殺傷能力があまり高いとはいえねえ。

ナンバー1よりナンバー2のサポート向きの能力だ。

だから･･･!俺がやるしかねぇ･･･!

だがどうやって?俺のザ・ハンドは近接戦でしか効果がない上に隙がでかい･･･

くそッ!俺は惚れた女も守れねえのか･･･!!）

億泰の顔に苦渋が満ちた。その時、

｢な･･･なんだ?右手が･･･熱いッ!｣

億泰の右手が真っ赤に燃えるように熱くなった。

（億泰･･･男なら、誰かのために強くなれ･･･）

｢兄貴ッ!?｣

突然、億泰の脳裏に亡き兄の声が轟いた。

｢兄貴･･･わかった!いくぜ!｣

｢そろそろ究極爆裂疾風弾（アルティメット･バーストエクストリーム）のチャージが完了するな･･･

さて、お前たち、何か言い残すことはないか?｣

｢てめーのその趣味の悪い龍と、俺たちを殺そうなんていう幻想を、今俺がぶっ殺してやるッ!｣

億泰のザ・ハンドの手にエネルギーが集まる。

｢くらえ!亜空転送波（レボリウムウェーブ）ッ!｣

ギュルルルルルルルルルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ

ザ・ハンドの右手に生成されたエネルギー段が勢いよく飛んでいき、龍の腹に命中した。

｢何ッ!億泰にこのような力があるとは･･･聞いていないぞッ!｣

亜空転送波（レボリウムウェーブ）が命中した龍の背後にブラックホールのような空間が現れ、龍はその中に吸い込まれていった。

ブラックホールのような空間の口は閉ざされ、二度と龍は出てこられない。

｢ぼ･･････僕の“ブルーアンド･ホワイト･ドラゴン”がぁぁぁぁぁ･･･ぜ･･････ぜん･･･め･･･めつめつめつ･･･｣

男は倒れた。

｢黒子ちゃん、これでもう安心だぜ･･･｣

億泰が振り返ると、

｢仗助大丈夫!?･･･ひどい怪我･･･億泰ッ!今すぐ救急車を呼んでくださいましッ!｣

億泰はポカーンとした。

が、やがて頭をかきながら、

｢やれやれ･･･どうやら俺は、黒子ちゃんにとってのナンバー2みてえだな。｣

億泰は苦笑した。

｢にしても･･･こいつの言ってた“ものすごい力”って･･･いったい何だったんだ?｣

 

｢佐天さ～～～ん、いないのーーーッ?｣

初春に頼まれて、御坂と承太郎も常盤台地区で佐天を探していた。

しかし承太郎は御坂とは別行動をしていた。

御坂が聞き込みを続けた結果、どうやら佐天は常盤台地区のネットカフェに入り浸っていたらしい。

｢この辺にいると思うんだけどな～｣

御坂が頭をかきながらふと後ろを振り向く。

するとそこには佐天の姿が･･･

｢佐天さんッ!?｣

｢御坂さん･･･ですか。｣

佐天の様子は異様だった。

全身から見たこともないような負のオーラが漂っている。

まるで地獄でも巡ってきたかのような感じだ。

初春さんに詳しい事は聞いていないが、いったい佐天に何が起こったというのか?

｢御坂さん･･･私、“ものすごい力”を手に入れたんですよ･･･｣

｢ものすごい･･･力?｣

｢はい･･･“幻想御手（レベルアッパー）”っていうんですけどね･･･｣

佐天が50メートルほど先の街路樹を指差す。

すると佐天の指先からものすごい風圧が放たれ、5メートルほどの街路樹が一瞬にしてひしゃげ、粉々になった。

｢ッ!!　佐天さん･･･あなた･･･!?｣

｢これが幻想御手（レベルアッパー）によって引き出された私の超能力、

“風力支配（ロード・オブ・ザ・ウィンド）”です。

幻想御手（レベルアッパー）のおかげで、私はレベル0からレベル5になれたんです・・・｣

｢レベル5・・・!?｣

御坂は恐怖した。

自分もレベル5だが、佐天の空気や風を操る能力、それには勝てないと思ったからだ。

｢さっきのは空丸（エアーガン）、御坂さんの超電磁砲（レールガン）といい勝負だと思うんですけどねえ･･･｣

佐天が皮肉っぽく笑う。

｢でも安心してください･･･まだ能力が発現したばかりで、空丸（エアーガン）は1日4発しか撃てませんから。｣

｢佐天さん･･･なんでこんなことを･･･｣

｢私は力が欲しかったんですよ。御坂さんたちと同じような、誰かを守れる力が･･･｣

｢誰かを守る･･･?あなたが守りたいのは自分なんじゃないの!?｣

御坂が怒鳴る。

｢幻想御手（レベルアッパー）なんて意味のわからないもの使って･･･

あなたが欲しかった力は、弱い自分を隠すための力でしょう!?

誰かを守るなんて、ただのいいわけ!

そんなあなたに守って欲しいと思う人間なんて1人もいないわよッ!｣

｢――――――――ッ!　1人も･･･いない･･･?｣

｢そうよッ!あなたの力が必要な人間なんて･･･1人もいないわよ!!｣

佐天は筆舌に尽くしがたいほどのショックを受けた。

（じゃあ･･･私は･･･何をして生きていけば･･･いいの･･･?）

佐天は急に貧血を起こしたような感覚に襲われ倒れた。

｢佐天さんッ!｣

御坂が倒れた佐天にかけよる。

｢御坂さん!｣

その時、別行動をしていた承太郎が偶然その場に駆けつけた。

｢承太郎さん!ちょうどいいところに･･･救急車を呼んでください!

佐天さんを見つけたんですけど･･･急に倒れちゃって･･･｣

 

翔太郎と初春は風都地区で佐天の捜索をしていた。

とおるるる　とおるるる

初春の携帯が鳴る。

｢はい、もしもし･･･佐天さんが見つかった!?本当ですか、御坂さん!

･･･今から病院に連れて行く?何があったんですか!?御坂さ･･･｣

電話が切れた。

救急車に乗るにあたって切ったようだった。

｢佐天が見つかったのか?｣

翔太郎が聞いてきた。

｢ええ･･･でも救急車で病院に運ぶって･･･｣

｢そうか･･･そういえば、救急車といえば、なんか今日やたらに救急車多くねえか?｣

翔太郎が指摘した通り、確かに今日は異様に救急車が多い。

そこら中で救急車のサイレンが鳴り響いている。

そう思った時、

｢そこの2人、ラーメンでも食べていかないか?｣

2人は突然声をかけられた。

見ると浴衣姿の男がラーメンの屋台を引いている。

2人とも遠慮しようかと思ったが、空腹がそれに勝った。

2人とも佐天が行方不明になってからほとんど何も食べていない。

男が作ったというラーメンは今までに食べたことがないようなうまいラーメンだった。

｢ごちそうさん。うまかったよ、あんたのラーメン。｣

翔太郎は心の底からそう言った。

｢ところであんたたち、今日救急車が多い理由を知っているか?｣

浴衣の男の意味深な発言に翔太郎と初春は耳を傾ける。

｢なんでも“幻想御手（レベルアッパー）”とかいうのを使った奴らが次々と倒れているらしい。｣

｢幻想御手（レベルアッパー）!?｣

翔太郎はその言葉に聞き覚えがあった。

前に連続虚空爆破（グラビトン）事件を起こした介旅初矢。奴もそれを使ったということだった。

奴は捕まったあと謎の昏睡状態に陥り、今でも病院のベッドで眠ったままだ。

｢そして、これが幻想御手（レベルアッパー）の正体だ。｣

浴衣の男は十数個の携帯音楽プレイヤーを取り出した。

｢何!?これが･･･｣

翔太郎は手にとって見てみる。

｢それはお前たちにやる。捜査の手がかりになるだろう。｣

浴衣の男は屋台を引いてどこかへ行こうとする。

｢あんた･･･いったい何者なんだ?｣

｢おばあちゃんが言っていた。“俺は天の道を往き、総てを司る男”･･･天道総司だ。｣

男は右手の人差し指を高く掲げながらそう言って、どこかへ行った。

翔太郎はスタッグフォンを取り出す。

｢･･･フィリップ、今から帰る。調べてほしいものがあるんだ･･･｣

 

翔太郎と初春は鳴海探偵事務所に帰ってきた。

さっそく翔太郎は天道からもらった幻想御手（レベルアッパー）をフィリップに調べさせる。

携帯音楽プレイヤーをフィリップがくまなく調べる。そして、

「わかったよ翔太郎、幻想御手（レベルアッパー）の正体が。」

｢何だったんだ、フィリップ?｣

｢調べてみたところ、これらの音楽プレイヤーにはある共通の音楽が入っていた。

それをパソコンに取り込んで音の波長などを調べてみたところ、非常に面白い結果が出た。

幻想御手（レベルアッパー）とは、特殊な音の波長を人間の脳に送り込み、人間の隠された超能力を引き出すものだったんだ。

この秘密がわかったことで、前は調べられなかった幻想御手（レベルアッパー）の更なる秘密が調べられるようになった。｣

｢よし、検索してくれ。｣

フィリップは地球（ほし）の本棚に入る。

｢･･･なるほど、幻想御手（レベルアッパー）を使った者たちが次々と倒れていくのは副作用のせいらしい。脳にものすごい負担をかけるからね。

しかしそれによって昏睡に陥った者たちの脳はAIM拡散力場（超能力者が常に微弱に発している超能力のフィールド）のネットワークによって結ばれる･･････いったい何の目的でそんなことをするんだ･･･?

―――!　翔太郎、幻想御手（レベルアッパー）の製作者がわかった!

幻想御手（レベルアッパー）の製作者は･･････｣

それを聞いて翔太郎と初春は驚愕した。

｢なんだって･･･それじゃあ早く病院にいる承太郎さんたちに連絡しねえと･･･｣

その時、翔太郎のスタッグフォンの着信音が鳴り響いた。

 

黒子と億泰、御坂と承太郎は偶然にも病院で合流した。

仗助は怪我の具合がひどく緊急手術、佐天は謎の昏睡で意識不明の状態だ。

｢仗助･･･｣

黒子と億泰は不安そうな顔で待合室のいすに座っている。

待合室はたくさんの人でごった返していた。

なんでも幻想御手（レベルアッパー）を使って佐天同様、謎の昏睡に陥った人が多いんだという。

億泰がさっき倒した長身の男もあれから目を覚まさない。

｢くそッ･･･いったい幻想御手（レベルアッパー）ってなんなんだよ･･･｣

億泰が愚痴る。

幻想御手（レベルアッパー）のせいで仗助は重傷を負い、佐天は意識不明になった。

すべて幻想御手（レベルアッパー）、そしてそれを作った奴のせいだ。

億泰はそう思うと怒りに身が震えた。

その時、

『東方仗助様の付き添いの方、院長がお呼びです。

至急、診察室までお越しください･･･』

億泰と黒子は立ち上がって診察室に向かった。

｢幻想御手（レベルアッパー）･･･｣

承太郎は考え込む。

先ほど、佐天の診察結果を聞いたところ、昏睡の原因がわからない限り治療のほどこしようがないということだった。

ならば、幻想御手（レベルアッパー）の製作者を捕まえ、直接解決法を聞き出すしかない。

承太郎は携帯電話を取り出し、翔太郎に電話した。

『もしもし･･･承太郎さん!ちょうどよかった!

幻想御手（レベルアッパー）の製作者がわかりました!』

｢何･･･本当か!いったい誰なんだ!?｣

『幻想御手（レベルアッパー）の製作者は･･･世界的なAIM拡散力場の研究の権威で、

承太郎さんたちが今いる病院の院長!木山 春生（きやま はるみ）です!』

｢なんだと･･･!｣

｢大変だーーーッ!承太郎さん!御坂!｣

億泰が走ってくる。

｢黒子ちゃんが･･･この病院の院長の木山春生とかいう奴に拉致されたーーーーーッ!!｣

『｢｢なんだってッ!!｣｣』

TO BE CONTINUED